観雀堂日録

炎天下 痩せた雀が 低く飛ぶ

御茶ノ水駅の乗り換え

御茶ノ水駅は東京にほど近い、JR線の駅である。総武線と中央線が乗り入れている。東京から職場のある飯田橋に行こうとすると、まず中央線に乗って御茶ノ水駅に至り、ここで総武線に乗り換えて飯田橋駅に行くのである。この駅は、自分のような乗り換え客が降りてはすぐに電車に乗る駅である。

さて、一口に乗り換えと言っても、駅と路線によってその様態は様々だ。例えば東京駅で、京浜東北線から京葉線に乗り換えようとすると、長い廊下を歩かねばならない。十分ほど歩き続けて、やっと地下深くにある京葉線のホームに着く。

これに比べると、御茶ノ水駅で中央線から総武線に乗り換えるのは極めて簡単である。2つの路線は同じホームに乗り入れているから、ホームの片側で降りて、もう片側のホームに来ている電車に乗れば良い。電車の運行計画もこの辺りを踏まえているらしく、片方の電車で降りると、同じタイミングで向かいに電車が来ているのである。

その日、仕事を定時で上がり、あまり乗り気でない気持ちであった。職場の近くの寿司屋で弁当を買い、外の冷たい石のベンチに座った。半分食べ終わった時、ぽつりと雨が降ってきた。慌てて残りを食べ、遊歩道を歩いてごみ箱に弁当箱を捨てた。

コートで体を温めながら、飯田橋駅に向かって歩いた。駅の改札を通ってホームに降り、電車に乗った。飯田橋駅から水道橋駅、次に来るのが御茶ノ水駅である。電車を降りて、濡れそぼる御茶ノ水駅のホームに降りる。

さて、この駅の乗り換えは、ごく簡単だと先ほど述べた。それは決して間違いではないのだが、ただ簡単だと言っては済まされぬところがある。

それはホームの真ん中に階段があることだ。両側のホームに高低差があり、この段差を埋めるために、ホームの向きに沿って、二、三段の階段がある。この階段はその使命に基づき、ホームに沿って長い。端から端までではないものの、しかし長いホームをその長い向きのままに二つに割ったような階段があるので、このホームで乗り換える人々は、時にその階段を降りたり昇ったりする。

自分は中央線に乗るために、その数段の階段に向かって、一足踏み出した。と、向かいの中央線の電車の扉が開き、一人の男が降りてきた。

男はひらりと飛び上がり、階段の上まで一息(ひといき)に上がった。なかなか見応えのある跳躍であった。その腕の開き方、コートの(ひるがえ)り方、勢いの付け方。

数段の階段ではあった。しかし、彼はこの跳躍を遊んでいたに違いない。静かに階段を上がることだって、確かにできたのだから。