野狐消暇録

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【感想】ダンジョンRPG「両手いっぱいに芋の花を」

ゲームの紹介

ダンジョンPRGというジャンルに属するゲームである。迷宮を探索し、人の暮らしに必要な芋の種を見つけることがゲームの目的となる。

ゲーム中は、ベースキャンプとなる町と迷宮を行き来しながらゲームを進める。

特徴

このゲームは、一言でいうと、せかされることがないゲームである。急いで操作をしなければならないような、リアルタイムの要素が全然ない。さらに、いわゆるデスペナルティが小さい。全滅してもベースキャンプに戻されるだけ。戦闘からは常に逃げ出せるし、ダンジョンの中にいる場合は、コマンドひとつでベースキャンプに戻れる。わざわざ歩いて迷宮の入り口まで帰る必要すらない。そのため、「これ以上進んだら負けるかもしれないから引き返そう」という風に考える必要があまりない。敵もシンボルエンカウントですべて見えているので、いつ敵に会うか分からないこともない。挑戦するかしないかは、自分で決められる。試しに戦って、負けてしまったら、「なるほどなぁ」と思って再チャレンジすればそれで良い。この辺の感覚は、ドラゴンクエストのような、HPとMPをすり減らしながらダンジョンを進んでいくゲームとはだいぶ違う。どちらかというと、Celesteのような感じの死にゲーに近い。すぐ死ぬが、すぐリトライできる、あれである。

面白さのポイント

このゲームの面白さは戦闘にある。戦闘では、最初に出会ったときから、その敵の体力や弱点などのステータスがほぼ全て見える。例えば、戦闘に入った瞬間に「あ、この敵は刺突攻撃に弱いのか」「炎はほぼ効かないな」ということが分かってしまうのである。そして、その特徴をちゃんと考慮に入れて、「刺突攻撃のために槍を装備して、技は投げナイフを使おう」とか、「炎攻撃は止めよう」とか、対策を取ることで勝てる。

また、次のターンの敵の攻撃もあらかじめ見えるので、「あ、ここは防御で敵の攻撃を防ごう」とか、「この味方には攻撃が来ないからチャンスだ、攻撃しよう」とか、対策が取れるのである。ここが面白い。この面白さで似ているゲームを挙げるとすると「Into the Breach」である。「Into the Breach」はストラテジーゲームなのだが、「Into the Breach」でも敵の行動が見えて、「敵の攻撃にどう対策を取るか」がゲームの面白さになっている。

ちなみに、ゲームが進むと、行動の順番まで見えるようになる。このゲームはランダム要素を少なくし、相手の行動やステータスが見えるようにすることで、プレイヤーに考えて行動する面白さを提供しているのだと思う。

この辺りの事を、作者の浜野氏は、電撃Nintendo2022年6月号のインタビューで「運任せでコマンドを選ぶのではなく、必然性を持って行動を選んでほしいんです」と述べている。

プレイの感想

今まで自分がプレイしたゲームは、ひとつひとつの戦闘が、このゲームよりはラフだったと思う。このゲームでは、毎回の戦闘で、どう行動しようか考えた。なんとなく攻撃だけ繰り出していると勝てる、ということがなかった。毎回の戦闘に手応えがあるゲームだった。

マップギミックに難しいものはなかったが、やっぱり扉を石の錘りで吊り上げたり、スイッチを入れると用水路の水位が変わったりする仕掛けは面白かった。自分はゲーム中の謎解きで詰まってしまって、進めなくなるのが嫌なので、この優しめの難易度は好きだった。

最初に本格的に困ってしまったのは、中盤に出てくる「蛇の王」というボスであった。全然勝てなくて、5,6回闘ったと思う。最後は「酸の霧」という刺突ダメージを2倍にする補助攻撃と、凍てつくワンドという氷柱ダメージを+20にする武器を装備して氷柱という刺突攻撃を使ったら勝てた。こういう、強い敵でも、大体3回ぐらい闘うとなんとか勝てるというちょうど良い難易度なのだ。これが良かった。

ダンジョンの敵は大体において徐々に強くなっていくのだが、突然すごく強い敵がいたりして、しばらく先に進んでから戻ってきて闘ったりした。こういう敵も含めると、強敵に類する敵はそこそこたくさん配されていて、いわゆるボス戦っぽいバトルを相当やったと思う。自分はドラゴンクエスト堀井雄二さんが「ドラクエは闘って全滅してもレベルが上がるので、誰でも最後はクリアできるんですよ」と言っていたのを聞いてからというもの、なるべくレベルを上げずに、つまり難易度を下げずにうまく戦って勝とうと思うようになった。それで今回も普通に進めていて遭遇する敵を除き、レベル上げをしないように努めていた。それでもちゃんと勝てたので、それはこのゲームの面白さだと思う。作者の浜野氏は上述の電撃Nintendoで「途中でゲームに飽きられてしまうのを常に恐れていまして、プレイ体験に”繰り返し”がないように気を付けています」と述べているが、特徴が敵によってそれぞれ違うので、ずっと飽きなかった。マップギミックも最後まで変わる。本当に、手持ちのコーンの中にまでアイスが詰まっているソフトクリームみたいだった。最後まで楽しめた。

ちなみに最後のボスは若干イベント戦闘みがあるが、自分はしっかり二回全滅して、三度目に勝っている。

物語

ゲームの物語は、ほぼチーフと呼ばれる案内役のキャラクターを通して語られる。語りの中で世界の様子が分かるようになっている。他のゲームでは、キャラクターを動かして演劇仕立てで示されることが多いが、ここではテキストベースである。ここは作者のこだわりなのか、作業ボリュームを抑えるための割り切りなのか分からないが、作品世界の歴史や社会構造のようなものは、テキストで示された方が分かりやすい。テーブルトークPRGでゲームマスターからゲーム世界について色々聞いていくような感じである。

語られる世界は一度繁栄した世界が崩壊したあとといった感じで、わりと暗い世相が語られる。作者は電撃Nintendoで「ゲーム内には売ることを意識して入れた要素は一切ありません」と言っているが、普通のゲームだったら入っていそうな美男美女とかマスコットっぽいキャラクターとか、そういう外連味が作品にない。もちろん、ラブコメっぽい話の流れもない。ただ、その分、語りが社会構造、この世界の歴史、自然環境など、普通のゲームとは違うベクトルに伸びていて、この辺りが独特の面白さになっている。

ただ、まったく芝居仕立ての物語がないわけではない。途中、挿話のような形で幽霊の話が出てきて、これは結構良かったので、プレイする人は楽しみにして良いと思う。

グラフィック

キャラクターは、二等身でできている、3Dの人形みたいな可愛らしい感じである。

敵も味方も可愛い。ゲームを最初に始めたときに表示される町の様子もなかなか良いのだが、一度ゲームが始まってしまうと、もう見るチャンスはない。

ゲーム中ずっと見てるのはダンジョン、戦闘、ベースキャンプの3つで、他に景色といえば、いつでも開けるマップしかない。このマップもなかなか箱庭的な愛らしさのあるマップで、普通の地図といえば平面であるが、このマップは三次元、つまり高さも表現されており、斜めから見ると上に伸びていく階段やダンジョンの段差などが見て取れる。マップはダンジョン内では灯火の下でしか開けないが、灯火の下で三次元のマップを開いているさまを想像すると楽しい。ゲームを進めると、風車が出てくるが、マップを開くとマップの中で風車がちゃんと回っている。これも実にいい。

音楽

クリア後に調べていて気がついたのだが、このゲームに使われている音楽は、ほとんどがフリーBGMである。このゲームのために作られた曲ではないのだ。全然気づかなかった。しかし、言われてみれば、テーマ曲があって、それが場面によってアレンジされて流れて、というようなことはなかった。オープニングの音楽がいいなぁと思っていたのだが、あれもフリーBGMだったのか。全く違和感がない。音楽はそれぞれ、シーンに合っていて良かったと思う。

全体についてのふんわりした感想

特に根拠はないのだが、作者の好みだったり、何を捨てて何を取るかという判断が非常にはっきりしているゲームという感じを受けた。さきほど、売ることを意識して入れた要素がないという作者の言葉を紹介したが、逆に言うと、作者は「売ること」を基準にしてゲーム中の要素について決断することができないわけである。つまり、純粋にゲームとしてどうしたいかを考えて、決めているということだろう。

しかも一人で作っているということなので、一人の人間がこうと決めたことが、ゲーム作品中を通して一貫する。そして作者が自分で納得するところまで行きついて、リリースを決めたのだろう。当然のことながら、リリース日が決まっているゲーム開発とは違う結果になると思う。ゲーム内容にまだ納得がいかないが、納期としてここでリリースするしかない、ということは起きないはずだからだ。

ゲームが最後までだれずに面白かったところ、物語やゲームのバランスが破綻していないところ、やっぱり個人開発の良さが出ているのではないだろうか? 特にこのゲーム全体がしっかりとまとまっている感じが、すごいなと思う。

まとめ

自分はこのゲームがかなり面白いと感じたのでこの記事を書いた。気になった方はぜひプレイしてみてください。

参考

store-jp.nintendo.com

  • 電撃Nintendo 2022年6月号「インディーズ&ダウンロードタイトル最前線」クリエイターインタビュー

www.kadokawa.co.jp