野狐消暇録

所感を記す

髪を切る

髪が伸びてきたが、なるべく床屋に行きたくない。原因は例の新型コロナウイルスである。こいつのせいで外出自粛要請がかかっている。のみならず、自分も感染したくないから、外に行きたくないのだ。どうしようかなと思いながら、長くなってきた前髪と一緒に過ごしていた。

すると、妻が僕の髪を見て、切ってやろうと言う。妻は時々、僕の前髪をゴム紐でポニーテールのように縛り、邪魔にならないようにしてくれていたのだが、ついに切ってくれるようだ。

ゴミ袋を持ってきて広げ、僕はその前に座った。妻が前に座り、はさみを手に僕の前髪を切り始める。しばらく切ってくれていたが、妻が僕の顔を見て笑い始めた。

世の中には、社会的な笑顔とでもいうべきものがある。敵意はありませんよ、という意味の、レストランの店員などが作る笑顔だ。妻は本気で笑っている、と思った。社会的笑顔ではない。

「鏡は?」

僕が聞くと、スマートフォンのinカメラを妻が渡してくれた。自分の顔を見てみると、前髪がぱっつんになっている。おかっぱの前髪が、僕の前髪である。

「大丈夫かな」

「大丈夫よ。まだ完成じゃないから」

そうかな。妻はまだ笑っていた。そして切り進め、僕の前髪は完成した。前髪以外はそのままである。

「もう邪魔じゃないでしょう?」

「そうだな」

inカメラで見ると、ちょっとおかしい気がしなくもないが、僕以外の人間は気にしないレベルである。これで完成だ。

こうやって、家で過ごす時間が増えると、色々な生活が変わる。

床屋の店員以外の身近な人に髪を切ってもらうことも絶えて久しかったが、切ってもらえば、それはそれで済む。また出社する前に、一回切ったら、それなりになるだろう。

それに。

オリジナリティがある髪型はいいものだ。僕はちょっと気にいったのである。