野狐消暇録

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『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』を観た感想

元々、チャーチルが好きであった。かっこいいと思っていた。

ニクソンが書いた、政治家の回顧録『指導者とは』にチャーチルが「われらが時代の最大の人物」というような紹介をされていたし、チャーチルの伝記『チャーチル / イギリス現代史を転換させた一人の政治家』(河合秀和著)も読んでいて、ある程度、歴史としてのチャーチルは知っていた。

映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』は、実話に基づくとは言え、フィクションである。これはこれで観てみたかった。

実際観てみると、思ったより良かった。

チャーチルも、似せ過ぎない感じが良かった。体形は寄せているし、顔つきも似ているけど、良い意味でフィクションだった。

ちょっと気になったのは、チャーチルのライバルというか、敵役がチェンバレンハリファックス外相なのだが、本当に映画で描かれたように、彼らの対独融和政策は誤りだったのか、という点である。現在から振り返れば、対独戦争で英国を率いたチャーチルが英雄なのは分かる。しかし、当時の判断としてどうだったのか?

また、ラストシーンでチャーチルは自身の徹底抗戦路線に議会の賛同を取り付けるが、その議会の熱狂が議論の正しさを裏付ける訳ではない。熱狂と言えば、ヒトラーも熱狂を引き起こす事に成功していたのである。

結局、あまり映画の世界と現実を安易に結び付けても良くないという、つまらない結論が待っているだけなのであるが、事実を元にした映画だけに、「現実ではどうだったのか」という関心を呼び起こすところがある。

事実の映画への反映という点では、チャーチルが常に演説の原稿を用意していたのは史実である。チャーチルが演説の原稿を作る場面が映画で多く出てきて、ちゃんと調べて作っているな、と思った。チャーチルは回顧録を書いているし、おそらく自分の気付かない、知らない史実も、たくさん映画に反映されているのではないかと思う。

これは映画を観たあと、ブログに書かれた批評を読んでいて気付かされたのだが、確かにセットもなかなか良かった。国王の部屋は豪華だし、街中の様子もちょっと出てくるだけだが、上品に描かれていて良かった。全体的に、画面が上品だったように思う。

「私たちは、街で、浜辺で、丘で戦う」とか、「自分が捧げられるのは、血と労苦と涙と汗だけだ」とか、お馴染みの演説も出てきて、チャーチル好きは、「ここで出てきたか」と思うだろう。「血と労苦と涙と汗」はすっかり忘れていたが、「街で、浜辺で、丘で戦う」は、「いつ出てくるだろうか? ラストかな?」と考えながら観ていた。この映画とは関係ないが、東西冷戦の時の「鉄のカーテン」はチャーチルの言葉らしい。やっぱり、文学的なところが、チャーチルにはあったのだろう。

自分としては、観て損がない映画だった。

人に薦められるかと聞かれれば、こう答える。

チャーチルが好きなら観よ! そうでなければ、君に任せる!」