野狐消暇録

所感を記す

佛の一撃

妻の仕事の手伝いで荷物の梱包をしていた。
梱包の終わった荷物を量りに載せて、重さを量ろうとしたときだ。腰の辺りに痛みが走った。鈍い、捻挫のような痛みだ。「しまった、腰をやったかな」と思い、そっと体を元の姿勢に戻してみた。やっぱり痛い。痛みに耐えながら、苦労して立つには立ったが、膝に手を置いたまま、背を伸ばすことができない。困ったが、何とか一歩一歩歩いて、布団に辿り着いた。敷きっぱなしなので、敷く手間が省けたのは、不幸中の幸いである。
妻は「なぜ仕事中に腰を痛めるのか。日をずらしてもらいたい」とにべも無い。この野郎とは思ったが、悪態をつく元気が湧かないので、言い返さずに黙っていた。
一体明日の仕事はどうするか。できれば一日休みがほしい。昔ぎっくり腰になったときも、一日は休みを貰って寝ていたので、今回もできればそうしたい。
そんな事を思ったが、布団の上に座ってみると、意外と痛くない。
そうだった。座ると痛くないんだった。
それで座ったままの姿勢で、妻の仕事の手伝いを再開した。いくつか荷造りが終わり、そのうち集荷に呼んでいた郵便局員がやってきて、荷物を持って去っていった。
日が暮れていた。二人で夕飯を食べに行くことにした。モスバーガーに向かう道すがら、「魔女の一撃」という言葉を思い出した。これはドイツ語でぎっくり腰をそう呼ぶのだそうで、先程、布団で横になりながら、ぎっくり腰について調べたときに出てきたのである。
それで、自分はさながら佛の一撃だな、と思った。
それというのも、最近腰に負担を掛けたことが無いか記憶を探った所、座禅をしだしたことを思い出したのである。あれで腰を伸ばして、じっと何十分も座っていたから、腰がおかしくなったのであろう。
佛の一撃。
あまり仏様には似つかわしくない言葉だが、これも禅の手荒い歓迎なのかもしれない。