野狐消暇録

所感を記す

『フェルマーの最終定理』(新潮文庫)を読んだ。

ドキュメンタリー番組の方を観たことがあって、この書籍版は後から読んだ。だから、内容はある程度知っていたわけだが、それでも面白かった。人の話でも、何度聞いても面白く聞けてしまうという事がたまにあるが、この話もそれに類する話らしい。映画でいうと、「ショーシャンクの空に」を思い出すような、長年月に渡る努力とその成果の話である。フェルマーの最終定理がテーマなのは、タイトルにある通りなのだが、フェルマーの最終定理を読者に説明するために、古代に遡って数学の歴史を追っていく。読者はフェルマーの最終定理を理解するための準備として数学の知識を学びながら、ピタゴラス教団の歴史や、ガロアの暴れん坊ぶり、谷山豊の悲劇まで、数学に関わる人々のエピソードを知る事になる。実際に数学書を読んだ方は知っているだろうが、数学書は1ページを読むのにも、それなりの努力と時間がかかる。しかし、本書は普通の書籍と同じスピードで読める。それは数式がほとんど出てこず、出てきたとしても、すぐに分かるようなものだけだからである。当然と言えば当然だが、フェルマーの最終定理の論文を読む事なしに、フェルマーの最終定理を理解することはできない。しかし、本書はフェルマーの最終定理の概要を丁寧に追うことで、フェルマーの最終定理を解くに至った数学者達の努力と情熱を明らかにすることに成功している。だから、数学を知らなくても、本書を充分楽しめる。kindle版は安いし、万人にお勧めできる。