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野狐消暇録

所感を記す

パソコンとルータを売る。

パソコンはディスクエラーを起こしており、正常に起動しない。もう復旧する事は諦めた。新しいDELLのパソコンを通販で購入し、Wi-Fi用の無線LANルータもインターネット回線を速くしたのに合わせて、新しく買った。パソコンと周辺機器が一通り新しくなり、古い故障したパソコンと使わない無線LANルータが残った。これをどうしようか?
自分は売ってみようと思った。近所のBOOK-OFFでも引き取ってくれそうだが、個人で品物を売買してみたいと思った。ネットで調べると、パソコンの買い取り業者がいる事が分かり、見積もりを依頼した。
「ごみパソ」という故障パソコンの専門業者は、自分のパソコンを1100円で引き取るという。一方、「高く売れるドットコム」はパソコンに値段をつけてくれず、0円である。無線LANルータは「ごみパソ」で聞いたところ、0円だった。無線LANルータは故障していないから、これは意外な結果だ。それはそれとして、自分としては、値段をつけてくれた「ごみパソ」に売る事に決めた。
売却したい事を「ごみパソ」にメールで伝えた後、先方から指定された書式で買取承諾書を書き、いよいよパソコンとお別れする事になった。FUJITSUのESPRIMOというシリーズの製品で、パソコンのディスプレイと本体が一体になっている。そのために、パソコンのディスクエラーと同時に、ディスプレイともお別れする事になってしまった。これが残念で、自分は新しいパソコンを本体とディスプレイ別々に買ったのである。
さて、お別れするに当たり、パソコンを段ボール箱に詰めて、蓋をしなければならない。しかし、家をくまなく探しても、適当な段ボールがない。仕方がないので、自分は段ボールを買おうと思った。
オリンピックというDIYの店に行き、段ボールを見てみた。そんなに高くはない。300円ちょっとだ。しかし、自分がこのパソコンを売って手に入れるお金は、高々1100円に過ぎない。300円の段ボールですら高く感じる。何より「儲けが減る」感じに耐え難い苦痛がある。
ただで段ボールを手に入れたい。もちろん、その方法はある。
スーパーやコンビニの人に頼んで、不要な段ボールをただで譲ってもらえばいいのだ。流石に自分もそのぐらいのことは知っている。しかし、何か物をただでもらおうというのは、ちょっと卑しいのではないか。気にする事はない、気にしなくていいという人がほとんどだろうが、自分としては、ちょっと嫌であった。今振り返るに、自分はお金を儲けようとしている。そのために、ただで段ボールを手に入れようとしている。これがただ友人に荷物を送る段ボールを探しているのだったら、ここまで引け目を感じなかっただろう。
どうしようか。
行こうか、行くまいか?
自分は、やっぱり、ここは買おうと思い、まず、オリンピックから家に帰り、自分の持っている故障したパソコンの大きさをメジャーで測る事にした。段ボールを買うにしてもサイズがあるので、どのサイズを買ったらいいか知るために、そうしたのである。
測ってみて、それから、もう一度、ごみパソのサイトを見てみた。梱包の仕方の解説が載っている。ここになんと、「スーパーやコンビニなどで、いらない段ボールをもらってくる」と書いてあるではないか。「パソコン 梱包」というキーワードで検索をかけると、他のサイトでも大体、段ボールをもらって来いとある。
「そうか、段ボールをもらうのは『公式なやり方』なんだ」
自分は意を強くした。僕がやろうとしたことは、現在の日本で当然と見なされる行為なのだ。他の時代から見てどう見えるか分からないが、現代以外の時代の人の目線まで、気にするには及ばぬ。
それで、問題は、段ボールの大きさだ。もらってくるにしても、そんじょそこらの段ボールでは、我がFUJITSUのESPRIMO君は収まらぬ。
自分は決心した。
ESPRIMO君と共に行く事を。
自分はESPRIMO君を小脇に抱え、アパートを出た。最初に向かったのは、近所のミニストップだった。しかし、店外に段ボールが見えない。ここにはないかもしれないと思い、自分はミニストップを通り過ぎた。
そして、交差点を曲がり、商店街を進んだ。この先にイオンがある。そこには段ボールがありそうだと考えたのである。
イオンに着く前に、それはあった。ドラッグストアの店外に、段ボールがたくさんまとめられていたのだ。自分は意を決して店員に声をかけた。
「すみません」
「はい」
「もし可能だったらで良いのですが、こちらの店でいらなくなった段ボールを、譲っていただく事はできませんか」
自分は、少し前から、この台詞を頭の中で作って、用意していた。それを言ったのである。店員はざっくばらんというか、気安く「持って行っていいですよ」と言ってくれた。
自分は店の外にまとめられていた段ボールを物色し、脇に抱えているESPRIMO君が収まりそうな一枚を探した。さして時間もかからず、それは見つかった。人通りはあったが、商店街から少し横道に入った路の端に自分は行き、ESPRIMO君を段ボール箱に収めてみた。入った。問題ないと自分は思う。
しかし、ちょっと段ボールが大き過ぎる。しかし、それはまた考えようではないか。まずは、入る段ボールが見つかったとなれば、話は七割方解決なのだ。自分はその段ボールをアパートに持ち帰った。そしてどうしたら良いか、思案した。
段ボール箱が大き過ぎる。この段ボールでは、何も入っていないスペースがたくさんできてしまう。
こんな時は、ネットで検索だ。
探すと、大き過ぎる段ボール箱をカッターで切って小さくする動画が見つかった。自分はほっとした。もう何も困難はない。この動画の通り、そのままやれば、段ボール箱は小さくなるし、小さくなれば、ゆうパックで送れるし、ゆうパックで送れれば、送料は着払いになるのだ。これは「ごみパソ」の決めたルールで、そうなっているのである。自分は一銭も払わずに、1100円を手に入れられる。
自分は安堵から、実際の作業になかなか手を付けようとせず、家の畳の上でごろごろしていたが、やっと立ち上がり、作業を始めた。
まず、必要な大きさを決め、マジックペンで印を付ける。次に、印に沿って不要な部分をカッターで切り落とし、必要な部分だけ残す。あとは、ガムテープでしっかり止めれば、必要十分な大きさの段ボール箱が完成である。
自分はESPRIMO君を段ボールに詰め、値段が付かなかった無線LANルータも詰めた。買取承諾書と、わずかに残っていたパソコンとルータの説明書のようなものも、一緒に詰めた。空いたスキマには、くしゃくしゃにした雑誌の紙を入れた。蓋をしてガムテープで留め、梱包が終わった。自分はこれを持って、まずミニストップに行った。すると、「ゆうパックはやっていない」という。親切な店員で「ゆうパックなら、ローソンか郵便局だよ」と教えてくれた。なんという世間の暖かさであろうか。お金を貰うのは自分であるにも関わらず、店員は僕に教えてくれたのである。
ローソンで荷物を送ると、何事か成し遂げた気になった。
もちろん、自分は知っている。時給換算すれば、なかなか割が悪い事を。自分はもう、一時間どころか、半日かけている。半日働いて1100円では、国の決めた最低賃金を下回ってしまう。しかし、自分は物を売ってみたかった。そういう経験が得られて、お金も一緒に得られるとなれば、そこに何の文句があるだろうか? テレビのCMではないが、今日の経験はプライスレスである。だが、そうは言っても、こんな事も思った。右から左に商品を流して、それでお金がもらえるなどという事はない。慣れれば違うかもしれないが、物を送るのにも、それなりの手間がかかる。経済学で言うではないか。ただの飯はない、と。