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野狐消暇録

所感を記す

土地が大事か? それとも、人が大事か?

政治

アメリカのトランプ大統領は、メキシコとアメリカの間に壁を築くそうである。元々、アメリカとメキシコの間には、国境線が走っているが、トランプ大統領の行為は、国境線を際立たせる事になる。国境線は言うまでもなく、国と国を分けるものであり、具体的には、土地を区切るものである。

 

トランプ大統領には、もうひとつ、土地と繋がりのある話がある。それはトランプ大統領が当選した時の得票数にまつわる話である。トランプ大統領と大統領の座を争ったのはヒラリー・クリントンだったが、彼女が得た票数は、トランプ大統領を上回っていた。それでは、ヒラリーが大統領になれたかというと、そうではない。アメリカの大統領選挙は、得票数を直接競うものではないからだ。トランプは多くの州で勝利し、大統領の座に就いた。州とは何か。それはアメリカを構成する地域の単位である。州もまた、国と同じく、土地に結びついていて、一つの州は、もうひとつの州と州境で区切られている。

 

トランプ大統領は、貿易上、保護主義を取る事が明らかになってきている。保護主義は、自国の産業を守るために、外国製品に関税を課す施策である。この政策は、輸入品の価格を上げる事によって、価格的に優位に立つ自国の製品を買うように自国の消費者を仕向けることになる。外国製品は、国内消費者からみると割高になるから、買いにくくなるのである。この「地産地消」政策は、外国政府の報復的な関税政策を招き、縮小均衡に向かう事が知られている。貿易そのものが行われなくなり、経済が縮小するのである。ひとつの土地の中に市場を閉じ込めると、その市場が必要な需要を全て満たす必要があり、得意な産業に特化する事ができない。この事が経済の発展を阻害し、世界を貧しさに向かわせる。

 

これは出身に関する事だが、トランプ大統領は政治家に転身する前に不動産会社の経営をしていたそうである。まさに土地を扱う仕事をしていた訳であり、大統領になった時、「土地」に注目した政治を行うのは、自然な流れだったともいえる。しかし、「土地」を中心に政治を行う事は、正しいだろうか?

 

 貿易における問題は、さきほど挙げた通りである。自由貿易の否定は広域市場の否定であり、貧困を招く事は避けられない。

政治が土地単位で行われることについてはどうあろうか?これは人間の平等にとって問題になる。ある特定の地域に住んでいる人の権利が、ただその土地に住んでいるという理由だけで、他の土地に住んでいる人よりも、強くなったり、弱くなったりするからだ。例えば、都市に住んでいる人の政治上の権力は、田舎に住んでいる人よりも弱くなりがちである。これは人口密度が原因である。集まって暮らせば暮らすほど、そこで暮らす人の意見は弱く勘定される事になるのだ。しかし、都市生活者の意見を軽視してよい理由は特にない。

政治がすべての人の生活を支え、自由な行動を保障すべきだとするなら、政治は土地を中心にするのではなく、人を中心にしなければならない。

しかし伝統的な政治の単位は、村であり、州や県であり、国であって、皆土地に結びついている。かつては関所が、今は税関が国と国を隔てている。

一見国境とは無縁そうに見える国際連合ですら、大国の意見は強い。ある「土地」に住んでいる人の意見が他の国より強いのである。これは単に事実上そうだという事ではなく、安全保障理事会常任理事国という形で制度化されている。

今日、難民の問題の解決が困難な理由の一つも、ここに求められるだろう。国境を超えて移動する人をどう支えたら良いのか。既存の政治はなすすべがない。

今日求められているのは、境界線のない世界を治める政治である。境界線のない世界、要するにグローバル化した社会に対するアンチテーゼとしてトランプ大統領が登場したのは示唆的である。トランプ大統領は土地を中心に世界を捉える。それは過去から続く世界として今を見るとき、まだ正しい。しかし、未来の政治を考えるとき、その考えは正しくない。トランプ大統領が行っているのは、これから必要とされる政治ではなく、かつて通用した政治であり、今日の世界に新たな混乱を招いている事は、不思議な事ではない。