野狐消暇録

所感を記す

茶道と家庭生活

僕は学生時代茶道研究会にいてお茶を点てていた。

今日仕事で、当直のような事をしているとき、お茶について久しぶりに色々考えたので、ここに記す。

 

自分は独身で、結婚相手を探しているが、なかなか見つからない。そのため、家庭生活がない。これを寂しい事と思っていたが、当直の最中に気が付いた。

僕は茶道を学んだが、茶道には家庭生活という側面がある。家庭生活の典型を行うという面があるのだ。

茶道は、所謂「座の芸能」のひとつである。身分、立場を離れて人が集まり、ひとつの空間を共有する。そういう世界であるが、俳諧が同じ「座の芸能」であっても、文学という一つの枠の中で行われるのに対して、茶道は「生活すること」を共有する。このため、茶道には多様な要素が含まれる。花、掛け軸、茶室建築、茶庭、作法、道具、料理、お抹茶、お菓子などである。そういうものは、家庭の中に元々あるが、それを茶道は、茶道の立場から再構成し、新しく世界を作ったのである。

それを思うと、僕に家庭生活がないというのは、単に結婚して子供がいるという意味での家庭生活がないのみであって、茶道的な家庭生活は一人でも送れると思う。

茶道には癒しがある。自分はそういうものを結婚生活に求めていた気がするが、それは結婚せずとも得られるのではないかと思う。お茶をやればいいのではないか。

そういう事を女性に求めるから、却って結婚できないのかもしれない。つまり、茶道によって、

① 結婚せずとも家庭生活を作れる。妻がいて子供がいてという事ではもちろんないが、自分が家庭生活に求めていた安らぎは自分一人で作れる。相手がいなければ家庭がないと考えるから難しいのであり、自分一人でもそういう空間が作れるなら、すぐにでも作るべきだ。他人に頼らず、自分で作るのである。

② 女性に求めるものが減る。癒しとか、心の安らぎというもの、そういう物を自分で作り出し、持っているのが大事と思う。それは人に求めるものではないのだ。自分で作っていく。人を当てにせず、自分で築いていきたいと思う。それは、女性との関係を考えてみると、相手に期待する事が減るから、良い事と思う。

③ 相手の考えを訊く必要がない。茶道は自分一人でやる。という事は、一種の家庭生活でありながら、パートナーと相談し、相手の要望を考慮するという手間がない。自分一人の考えで進める事ができ、自由である。

④ 別れるという事がない。女性の場合、結婚すればずっと一緒にいるだろうが、自分の場合は、女性が去っていく。しかし、茶道は僕が勝手にやるのであるから、途中で止める必要がない。好きなだけやれると思う。即ち、継続的に取り組む事ができる。

といった事が可能になると思う。

映画「スターウォーズ エビソード4」で、ラストのあたり、去って行ったはずのハン・ソロ船長が帰ってきて、悪と戦う主人公ルーク・スカイウォーカーの助太刀をする場面がある。

僕にとって茶道はそれである。学生時代に打ち込んだものの、仕事の役には立たず、「なぜあんな事に時間を使ってしまったか」などと考えた事もあったが、今こうして結婚が難しい立場に立たされてみると、急に「やってて良かった事」になり、自分に希望を与えてくれる。つまり、一度疎遠になったものの、思わぬ危機にもう一度現れたハン・ソロ船長は茶道である。

それで、「茶道と家庭生活」という題だが、家庭生活というのは、どちらかというと、私生活に当たると思う。茶道が社会に出て役に立たないのは、茶道にも社会生活というのはあるが、それは先に述べた「座の空間」であり、公的な身分を離れた交流の場であって、公的な場ではないからである。立場に従って仕事を進め、何かを成すといった事とはやはり異なると思う。そういう、公的な社会空間という事ではない。自分が社会人になってから、漢詩儒教の世界に惹かれるようになったのは、社会人生活を送るようになり、そちらの世界に近付いたからだろうと思う。政治や歴史といった観点が大切なのは、公的な世界であると思う。

茶道はそういった公的な世界、文明的な世界とは異なり、どちらかというと、私生活に資する所が大きいのではないかと思っている。

仕事に就いて6年位経つが、ようやく私生活を考える余裕を得た。

そうしてみると、結婚生活の有り無しに関わらず、自分には私生活が必要である。

私生活=結婚生活ではない。

結婚はあるかないか分からないという点で、大きな期待を掛ける事はできない。

自分でやる限り、終わる心配がない私生活を準備する、そういう二枚腰、二段構えもあっていいのではないか。

だから、結婚については、できる限りやってはみるが、これは縁がない可能性もある。結婚そのものに縁がないかもしれない。

だから、茶道によって、自分なりに家庭生活を作って、送ってみるというのも、面白いと思う。

これは婚活の解答としては、当初の予定になかった、いわば「別解」である。

僕はこの「別解」が、ことのほか気に入っている。

理由は上に述べた通りだ。

自分は自分なりに、家庭生活を作りたいと思っている。